弁護士・不動産鑑定士の安藤晃一郎です。今回は、相続時の不動産価格の算定方法についてまとめてみましたのでご一読ください。
〇相続で不動産価格が問題になる場合
相続が発生した場合に、遺産分割や遺留分などの手続の中で、その遺産である不動産については、複数の相続人がその不動産を共有するのではなく、相続人の1人が不動産を単独で取得することがあります。不動産を取得した相続人は、不動産を取得しない相続人に対して代償金(不動産を取得する対価)を支払います。この場合に、不動産を取得させる対価としていくら支払うかを決める必要があり、不動産価格が問題になります。
〇不動産の価格は複数あります
不動産の価格には、売買価格、公示価格、路線価、不動産鑑定評価額などいろいろ種類があります。まずは、これらの価格について説明します。
売買価格は、実際に、不動産を売却する際に決定される価格のことをいい、売主と買主の合意によって決定される価格をいいます。
公示価格(地価公示価格)とは、国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として示す価格をいいます。相続税路線価や固定資産税路線価も公示価格をもとに算定されています。
路線価には、相続税路線価と固定資産税路線価の2種類があります。
相続税路線価は、相続税、贈与税等の算出の基準で、公示価格の80%を目安に設定されています。相続税額を算定する場合の土地の評価ではこの相続税路線価が活用されます。
固定資産税路線価は、固定資産税算出の基準で、公示価格の70%を目安に設定されています。固定資産税評価額は、不動産ごとに評価額が算定されているので規範性が高い評価額ですが、3年に一度しか評価替えをしないため時点修正が必要となります。
不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づいて算定する価格をいいます。
〇相続での不動産評価は不動産鑑定評価額が基準になります
相続では、不動産鑑定評価によって算定された価格(不動産鑑定評価額)が不動産価格を決める基準になります。
相続税路線価は、あくまで相続税額を算定するためのものですので、相続では相続税路線価は不動産価格の参考に留まります。
対象不動産の周辺にある公示地の公示価格や対象不動産の路線価を公示価格に割り戻した公示価格相当額は不動産鑑定評価額に近い価格ですが、対象不動産の個別的な事情を反映しにくいというデメリットもあります。
そのため、最終的には不動産鑑定評価基準に従って算定された不動産鑑定評価額をもとに不動産価格を決めることになります。
なお、不動産の時価を査定した資料としては、不動産鑑定評価書の他に、売買価格の決定する際に不動産業者が作成する不動産査定書があります。
不動産査定書は、不動産業者が、不動産を売却しようとする方へのサービスとして作成するもので、無料で作成されることが多く、相続でも不動産査定書が活用されることがあります。
しかしながら、不動産査定書は、不動産鑑定評価書と似ておりますが、その算定方法や使用している資料が異なります。
不動産鑑定において使用する取引事例は不動産鑑定士協会にある事例を使うなどの一定の規則がありますが、不動産業者の査定はこのような制約がなく、また、実際に売買契約が成立した事例(成約事例)ではなく、売却募集している段階の事例(募集事例)が使用されることがあります。
そのため、不動産鑑定士からしますと、不動産査定書は参考程度としか考えていない場合が多く、不動産価格について対立が大きい事案では、不動産査定書を用意しても効果的なものとはいえません。
〇裁判所による不動産鑑定(裁判鑑定)までの対応が肝心です
相続では、当事者間で不動産価格について合意ができない場合、裁判所が選任した不動産鑑定士による不動産鑑定(裁判鑑定)を実施します。
裁判鑑定を実施する場合には、裁判鑑定を実施する前に、私的に不動産鑑定を実施するなど不動産鑑定に関する準備をする必要があります。
裁判鑑定の「後」に、その鑑定評価額について異議を述べてもその異議が認められる可能性は低いです。裁判所は、自らが選任した不動産鑑定士による不動産鑑定を信頼しているためです。
相続で不動産価格を争う場合の重要なポイントは、裁判鑑定を実施する「前」に、裁判所や裁判鑑定を行う不動産鑑定士に向けて、不動産鑑定に関する自己に有利な点を主張立証しておくことです。
〇不動産鑑定評価基準に基づく反論が重要です
また、相続で不動産価格を争う場合には、単に不動産価格が高い低いと述べても水掛け論になってしまいますので意味がありません。反対当事者の主張した不動産価格や不動産鑑定評価書(不動産査定書を含みます)が、不動産鑑定評価基準に照らして問題があるということを説得的に主張する必要があります。
相続における不動産価格の算定方法についてまとめてみましたのでご参考になさってください。