アパート経営に憧れる人は年々多いように感じます。
アパート経営=不労所得、不労所得=楽で楽しい生活、とイメージする人も多いと思いますが、それはアパート経営が成功するのが大前提です。
アパート経営の一番近くにいる不動産屋として、またアパート経営の経験者として、アパート経営で気をつけるポイントを解説したいと思います。
1. 利回りはきちんと計算しましたか?
不動産投資の情報サイトでは「表面利回り」しか載せていないものが多いです。
表面利回りのみで、計算するのはNGです。 表面利回りだけの判断は、失敗の第一歩!
そのまま買ったら相手の思うツボです。
利回りは、物件運用に関わる経費も入れて投資の判断をしましょう。
まずは利回りの話からはじめたいと思います。
1-1. 表面利回りとは?
まずはよく不動産投資のサイトや不動産広告でよく見る「表面利回り」の話から。
表面利回りとは、単純に年間収入を物件価格で割ったものです。
グロス利回りとも言われます。
例えばこの物件で考えてみましょう。
架空の物件です。
年間収入 | 240万円 |
物件価格 | 3,000万円 |
表面利回りで、必要になる数字は上記の2つ。
年間収入と物件価格です。
年間収入 物件価格 100 = 表面利回り(%)
となるので、今回の物件で計算すると。
240万 3,000万円 100 = 8%
この物件の表面利回りは、8%となります。
8%!いいじゃん!と考える人もいらっしゃるかもしれませんが、表面利回りでの数字は全然当てになりません。
計算式も単純なので、あまり当てにならないのは何となく分かるとは思います。
続いて、もっと良い利回り計算方法を解説したいと思います。
1-2. 実質利回り
実質利回りは、諸々の経費を入れて計算する方法です。
( 年間収入 ー 年間経費 ) ( 物件価格 )
少し複雑になってきましたね。
小学校4年生くらいで習った計算式です。 表面利回りの計算は、単純な割り算なので2年生くらいのレベル。
これで、2年生分レベルアップです。
アパート経営で掛かる主な経費は以下の通り。
- 管理料(不動産屋などに委託する場合)
- 固定資産税、都市計画税
- 光熱費(共用部電気、水道など)
- 火災保険
- 【区分マンションの場合】管理費、修繕積立金
主にはこの5つ。
これもこの架空の物件で考えて見ましょう!
今回は一棟アパートなので、5の管理費、修繕積立金は入りません。
(厳密に言えば、修繕費として蓄えておくことをおすすめします)
ちなみにこのような販売図面には、経費の掲載は無いことが多いです。
年間で掛かる諸経費
管理費 5% | 12万円 |
固定資産税、都市計画税 | 50万円 |
光熱費 | 5万円 |
火災保険 | 10万円 |
合計で、77万円となります。
これで当てはまる数字が出ました。
( 240万円 ー 77万円 ) ( 3,000万円 )
0.054という数字が出ます。
これに100をかけるとパーセントが出ます。
5.4%
これが実質利回りの数字です。
ここまで出てくると「あれ運営大丈夫かな?」とか「意外と儲からないな」とか、いろいろな考えが出てくると思います。
それは良いことだと思います。 一度立ち止まって、冷静に考えてみるのも大切です。 アパート経営が初めてならなおさらです。
不動産投資の情報サイトや広告は売ってなんぼですから、こういった現実的な数字、資金繰りなどは考えさせないようになっていますので、注意が必要でしょう。
1-3. 実質利回り もう少し踏み込んだ計算式
もう少し踏み込んだ計算式もあります。
物件を買うときの諸経費も入れる計算式です。
( 年間収入 ー 年間経費 ) ( 物件価格 + 購入諸経費 )
アパート経営での、主な購入諸経費は以下の通りです。
- 仲介手数料
- 登録免許税
- 司法書士への手数料
- 不動産取得税
- 固定資産税、都市計画税の精算金
借入をする場合は保証料、抵当権設定登記の費用などが掛かります。(これが結構高い!)
2. 礼金ゼロではないですか?
アパート経営で失敗してしまう人の多くは、立地(エリア)の選定ミス。
不動産は何よりも立地が大切です。
まず1つ目が、「礼金ゼロのエリアではないか?」といいうポイント。
このポイントはまだ指摘する人が多くないのですが、礼金ゼロの賃貸物件が多いエリアは要注意です。
利回りを守るため賃料の値下げではなく、敷金礼金ゼロ、フリーレントで調整している物件が最近増えてきています。
これは実質の値下げです。
また物件の競争力が無い、という判断基準にもなります。
少し前になりますが、入居者側の目線で敷金礼金ゼロについて解説したコラムです。
敷金礼金ゼロってどうなの?デメリットについて考える(暮らしっく不動産)
https://www.kurachic.jp/column/523/
東京の都心部では、2017年現在で敷金礼金は1,1が相場です。
東京23区の敷金礼金0 ランキング
順位 |
区名 |
募集された物件数 |
敷金礼金0の割合 |
1 |
足立区 |
29,146戸 |
15.88% |
2 |
板橋区 |
32,749戸 |
15.75% |
3 |
江戸川区 |
35,513戸 |
14.19% |
4 |
葛飾区 |
17,049戸 |
13.75% |
5 |
北区 |
23,421戸 |
11.68% |
6 |
豊島区 |
30,144戸 |
11.23% |
7 |
墨田区 |
20,966戸 |
10.39% |
8 |
中野区 |
33.696戸 |
9.72% |
9 |
練馬区 |
33,980戸 |
9.50% |
10 |
荒川区 |
13,732戸 |
9.50% |
11 |
新宿 |
43,193戸 |
8.85% |
12 |
江東区 |
30,513戸 |
8.71% |
13 |
杉並区 |
47,489戸 |
8.23% |
14 |
台東区 |
20,188戸 |
7.64% |
15 |
大田区 |
52,130戸 |
7.35% |
16 |
文京区 |
22,562戸 |
6.67% |
17 |
千代田区 |
8,533戸 |
6.56% |
18 |
世田谷区 |
76,083戸 |
6.41% |
19 |
港区 |
33,144戸 |
5.83% |
20 |
渋谷区 |
32,197戸 |
5.43% |
21 |
品川区 |
33,902戸 |
4.98% |
22 |
中央区 |
22,509戸 |
4.87% |
23 |
目黒区 |
27,405戸 |
4.56% |
これを逆に見れば、人気のエリアという見方もできるかと思います。
ただ区で見ると広すぎるので、実際に考えるときはもっと詳しく見ていく必要があります。
2つめのポイントは買う物件が「礼金ゼロで募集されていないか」。
入居者が入っている物件を買う場合は、その入居者を獲得するのにどのような募集を行ったのか、これを見ておきましょう。
賃貸借契約書については、契約までもらえないことが多いとは思いますが、どのような募集で獲得したのか、業者に確認を取りましょう。
きちんと管理されている物件であれば、契約書類の保管も良いので分かります。
逆に分からなければ管理状況が悪いという基準にもなります。
3. 運営は大丈夫?
アパート経営は運営が大切です。
一昔前前はあれば入るのような状況だったようですが、今は違います。
空室率も上がってきています。
入居中の運営はもちろん、募集時の運営、レスポンスなどバランスの良い運営体制が取れていないと、空室率が上がります。
空室率が上がるということは、利回りの低下。収入が下がる。
収入が下がるということは、赤字への第一歩です。
まず物件の管理をどうするのか。これが一つポイント。
不動産業者に管理委託をするのか、自主管理で頑張るのか。
管理委託をする場合は値段だけで見ないことが大切です。
最近安い業者も増えてきていますが、個人的な意見では安い業者は安いなり。
長い目で見ると値段でなく、きちんと管理してくれそうな業者を選ぶと良いでしょう。
管理委託をする場合は、空室が発生して入居者が募集とその審査も任せることになります。
あまり良くない不動産業者では、この審査がかなり甘いことがあります。
「知らない間に風俗事務所にされていた」「家賃踏み倒されて回収出来なかった」「修繕費用が不当に高い」「退去で入居者と揉めた」など、実際に安い業者に管理委託していた物件の内容です。
アパート経営は安定が第一。
一回入れてお終いではありません。
安定稼働出来るように、いい管理体制を構築することが大切です。
アパート経営をはじめる前に、いい管理体制が築けるのか、一度きちんと考えておきましょう。
4. 本当にいい物件?
利回りが良いからいい物件という訳ではありません。
新耐震基準や接道の他にも気をつけるポイントとたくさんあります。
例えばこの物件で見てみましょう。
- セットバックがある
セットバックが5m²あります。 これは建て替え時に5m²減ることになります。
5m²減ることの影響がどのくらいなのか、確認しておく必要があります。 - 接道の確認
どのように接道しているのか、地図や公図から確認しておく必要があります。 - 隣地はどうなってる?
隣地がどのようになっているのか調べる必要があります。 何か権利関係で揉めていたりすると面倒なことになるので要注意です。 - 都市計画道路
都市計画道路が有りとなっているので、どの程度関係してこの土地にかかってくるのか、確認しておく必要があります。
程度によっては、将来なくなってしまう土地かもしれません。 - 電気ガス水道
ライフラインとなる、電気ガス水道のところが省略されています。
どのような経路でこの物件にきているのか、確認しておく必要があります。
アパート、マンションなどの共同住宅では水道管の口径がどうなっているのかも確認すべきポイントです。
水道管、電気が隣地を一部通っていたりすると、少し面倒です。
言わないと契約まで教えてくれないことがほとんどなので注意が必要です。 - 建ぺい率、容積率オーバー
建ぺい率と容積率がオーバーしています。
借り入れする場合などに影響が出ます。
借り入れに影響が出るということは、逆に売却することになった場合も同じことが言えます。
価値が下がる要因の一つにもなります。 - 検査済証なし
確信犯的な違反建築物件、延床面積が普通より広い物件です。
先程の建ぺい率と容積率にも関係するのですが、実際の延床面積がどのくらいになるのか計算しておくべき物件です。
今はいいけど、後にどうなるんだろう?と考えておくと良いかと思います。 - 築年数と耐用年数
建物には法定耐用年数というものがあって、それに伴い償却期間などが決まります。
この法定耐用年数は、借り入れする場合の期間にも影響します。
この物件は平成10年築の鉄骨造。
もうすぐで平成30年なので、平成30年として、20年経過。
残存期間は、14年。
これをどう考えるかもポイントです。
残存期間が短いとそれだけ借入の期間が短くなります。
借入の期間が短すぎると買手が少なくなる。そうなると物件価格にも影響が出ます。
【簡単な耐用年数表】
軽量鉄骨造 19年
木造 22年
鉄骨造 34年
鉄筋コンクリート造 47年
簡単に思いついたものでこれだけあります。実際にももう少し。
ここまで見ると「あれ、そんないい物件という訳でもないな」と思うと思います。
その通りで、不動産は内容が大切です。
内容もしっかり把握した上で、検討することをおすすめしたいです。
5. 節税目的でのアパート経営?
ここ数年は節税目的でのアパート経営が多かったように思います。
金融緩和もあってアパートローンの貸出が積極的で融資も受けられたので、節税目的でと考えた人も多いのではないでしょうか。
節税目的でのアパート経営の場合、節税目的ばかりに目を向けて肝心の「物件」をあまり見ていないことが多い印象です。
今年相談を受けた中で、節税目的で買ったアパートの相談がありました。
買った方は、一部上場企業で給与所得の多い方。 誰もが知る企業です。
給与所得が多いので節税のために買ったアパート、しかし思いのほか入居率が悪く困っているとの相談でした。
少し調査してみると、アパートを売った業者の家賃設定が少し高い、近隣の同スペックのアパートも募集に苦戦している、ということが分かりました。
買うのが失敗だったのかはまだ分かりませんが、買った値段に関しては失敗だったのかなと思いました。 節税効果は低かったということです。
アパートを売る不動産業者は、売った後の資金繰り、アパート経営に関しては関与しません。
サブリースなどで関与する場合もありますが、それもあまり内容が良くないことが多い。これはNHKのクローズアップ現代でも取り上げられていましたね。
今回のケースはうまく逃げ切ったなという印象でした。
アパート経営をするというこは、一事業者ということです。
売る側の条件、内容、調査を鵜呑みにしないで、自分なりに分析する。または第三者に分析してもらうことをおすすめしたいです。
節税ばかりに目を向けて、ハズレ不動産物件を引かないように注意しましょう。
さいごに
少し厳しい内容もありましたが、これは失敗しないで欲しい気持ちからのことです。
アパート経営をするということは、プロとしてお金をもらうことと同じです。
うまみもありますが、リスクも当然にあります。
今回あげたポイントに気をつけながら上手にリスクコントロールできればと思います。
リスクがわかっていれば、いい物件も見つけれられたりもします。
アパート経営をするという方は、ある程度余裕のある方だと思います。
不動産とは別のジャンルなどでご活躍されている方、知識力が高い方が多いと思います。
幸せだった生活がアパート経営の失敗で全て台無しに...ということがないように。
不動産投資サイト、アパート売り業者、投資不動産業者などは、売ってなんぼの業者も多いです。
全てを鵜呑みにせず、きちんと考えて。 冷静に、しかし時には熱く。
アパート経営、不動産投資がうまく潤滑にいくことを祈ります。
それでは今日はこのあたりで。