今回は、大家さんにとって一番の悩み事である入居者が家賃の支払いを怠るという問題、いわゆる「家賃滞納の問題」の対応策についてご説明したいと思います。
<目次>
1.初動対応
入居者の家賃滞納が発覚した際は、スピードと手順が非常に重要になってきます。
特に手順を間違えると大家さん側が訴えられる可能性もありますので、手順はしっかり守りましょう。
(1)入居者に家賃が支払らわれていないことをすぐに伝えましょう
まずは、家賃の滞納が発覚した後、すぐに入居者に家賃を支払うよう催促をすることが肝要です。この時点での催促は、電話でも書面でも何でも構いません。ポイントはできるだけ早い段階で入居者の方とコンタクトを取り、入居者に家賃の入金をお願いすることが最も重要です。また、毎月の家賃の入金管理を適切に行い、家賃が適切に入金されているかこまめに確認しましょう。
(2)早急に弁護士への相談が必要です
家賃の滞納が1か月を超えた場合には、弁護士に相談が必要です。
家賃の支払いが1週間程度遅れているだけであれば催促するだけで良いと思いますが、その後も家賃の支払いがなく、家賃滞納が1か月を超える場合には注意が必要です。
入居者から大家さんに「○日まで家賃を支払うなどと」連絡がある場合は良いですが、大家さんから入居者に連絡しても何も連絡がない場合には、家賃の支払いできない何らかの経済的な事情があり、それを大家さんにも説明できないわけですから、家賃の滞納が大きくなる可能性が高いといえます。
このような場合にお勧めしているのは、滞納が1か月を超えた時点で、一度、弁護士に相談し、その後も家賃の支払いがない場合には、弁護士から家賃を支払うように内容証明郵便で「催告」(家賃の支払いを促すこと)してもらい、家賃の滞納が2か月間を超えたら直ちに裁判を起こすという手順です。
滞納が1か月を超えた段階になりますと滞納が増えないようにどうするかご検討いただければと思います。家賃の滞納が拡大した段階で弁護士に相談するというのでは対応が遅れすぎて、回収できる見込みがどんどん減ってしまいます。
また、家賃の滞納が長期化する場合には入居者を建物から強制的に退去させる必要がありますが、強制的に退去させるためには、裁判所の関与なしに実力行使によって退去させることは違法ですので、裁判を通じて判決を取得して、裁判所による適法な退去の手続きをとる必要があります。
万が一、裁判所の関与なしに実力行使で強制退去を行った場合には、逆に大家さんが訴えられる可能性もありますので、手順を間違わないようにして下さい。
2.滞納を防ぐための対策
このように家賃の滞納が分かった時点で早期に対応をすることが必要になりますが、対策としては限界があります。次に、滞納を防ぐための対策について検討したいと思います。
(1)保証会社の活用
大家さんが入居者と建物の賃貸借契約を締結するにあたっては、入居者以外の方を連帯保証人にして、家賃の支払いを担保することがあります。
そして、この連帯保証人は、親や兄弟など入居者と一定の関係にある方が連帯保証人になることがありますが、家賃保証を専門的・集中的に扱う保証会社が連帯保証人になることがあります。これは、保証会社を活用すれば、入居者が家賃を滞納した場合には、入居者に代わって保証会社が家賃を支払ってくれます。
ただし、保証会社が家賃を保証するに際し、入居者は保証会社にそれなりの金額の保証料(家賃の1~2か月分であることが多いです)を支払う必要がありますので、その負担を入居者が嫌がる場合があります。
(2)保証会社以外の連帯保証人ついて
保証会社ではなく、第三者が保証人になることがあります。この場合には、大家さんとしては、連帯保証人が、入居者が滞納した家賃を支払う能力があるかチェックする必要があります。
連帯保証人は、入居者が家賃の支払いを滞納した場合に、入居者に代わり、滞納した家賃の支払うことになるわけですから、滞納された家賃の支払いができるだけの財産や収入があるかを調査する必要があります。
また、賃貸借契約の契約期間が長くなりますと、連帯保証人の財産や収入にも変化がありますので、賃貸借契約の更新時に、連帯保証人の属性(勤務先や収入)に変動がないか確認するようにしましょう。賃貸借契約締結の際には十分な収入があった連帯保証人が、数年度には仕事を定年退職してしまい、家賃の保証ができないことという事態が頻繁にあります。
なお、連帯保証人との連帯保証契約は、賃貸借契約と同時に締結することになりますが、連帯保証人は賃貸借契約の締結には立ち会わないことがほとんどだと思います。連帯保証人が契約の場に立ち会わない場合には、連帯保証人から、連帯保証の承諾書や連帯保証人の印鑑証明書などの提出を求めて、連帯保証人が保証人になる意思を有していることを確認するようにしましょう。
3.家賃滞納対策の有効性
(1)鍵の交換を行うことができるか
家賃滞納の問題が発生した場合に、入居者に貸している部屋の、玄関の鍵を交換するという対応が取られることがあります。入居者は玄関の鍵を交換されてしまうと何もできなくなってしまいますので、家賃を支払わざるを得なくなりますので、それなりの効果はありますが、このような入居者に無断で、鍵を交換することは違法です(このような措置のことを「自力救済」といいます)。
入居者に無断で鍵を交換してしまうと、大家さんは損害賠償責任を負うことになってしまう可能性がありますので、入居者に無断での鍵の交換は止めましょう。
(2)賃貸借契約書の特約条項を設けることができるか
では、入居時に締結する賃貸借契約書に、「家賃を支払わなかった場合には、鍵を交換する」という条項や、「家賃を支払わなかった場合には、直ちに賃貸借契約を解除し、賃貸借契約の解除後2週間以内に建物から退去する」との条項を設けることによって、家賃滞納を防ぐことができるでしょうか。
一見するとこのような合意も有効であると考えてしまいがちですが、現在の裁判実務では、このような条項については、賃貸借契約締結時に、入居者がきちんと契約内容を理解していたとはいえないということや、生活や営業の拠点を奪う行為であるため慎重に対応すべきなどの理由から、このような条項があるからといって条項の内容を実行することはできないと考えられています。
入居者から家賃の支払いがない場合には、賃貸借契約書の条項を問わず、建物の明渡しを求める裁判を起こして、退去を求めることになります。
4.滞納問題を起こさないために
以上、様々な家賃滞納の対処方法について説明しましたが、滞納問題を起こさないようにするためには、入居者との間である種の信頼関係を構築することも重要です。
家賃の滞納が起きた際に、入居者から謝罪とともに滞納に至った理由について説明がなされるような関係を構築しておくことが望ましいといえます。
また、家賃の支払期限を数日間すぎて支払った場合などにも一声かけられるような関係が望ましいといえます。入居者との間に信頼関係がある場合には家賃の滞納の問題が起きにくいです。
家賃滞納の対処に特効薬はありませんが、様々な段階で適切な対応をとることによって家賃滞納が起こる危険を回避できるのではないかと思います。
5.家賃滞納時の大家さんの動き方の整理について
<動き方>
- 家賃滞納発生
- 書面(もしくは電話)で家賃督促
- 弁護士に相談し、督促書面(内容証明郵便発送)
- 弁護士を通じて建物明渡の裁判を起こす
※目安となる期間として、①~③で1~2か月程度、④は4~6か月程度は必要な期間となります。
<注意点>
- 家賃滞納しているからといって、勝手に鍵は交換してはいけない
- 裁判所の関与がないと、強制的に入居者を追い出すことはできない
家賃滞納は大家さんにとっては死活問題ですが、適切な対策と対応によって家賃滞納のリスクを軽減することはできますので、一度ご検討してみてはいかがでしょうか。